がん と 癌 は違うもの?
腫瘍 というのは、特定の細胞が勝手に増殖する状態をあらわします。腫瘤 はもう少し広い言葉で、腫瘍以外にも炎症性腫瘤(炎症細胞が集まった状態)や血管腫/血管奇形(血管が毛玉のように集まったもので、特定の細胞が増えているのではない)なども含む用語です。
腫瘍の分類にはいくつかの種類があります。良性と悪性、癌と肉腫などです。
良性腫瘍は転移(血液などに乗って全身に広がる状態)をしないもの、悪性腫瘍は転移をして命にかかわるものといえます。
体ができるときには、表面を覆う細胞(上皮細胞)と、内部の細胞(非上皮細胞・間葉系細胞)があり、これとは別に全身を流れる細胞(造血器細胞)があります。上皮細胞が悪性化したものが癌「癌(carcinoma)」、非上皮細胞が悪性化したものが「肉腫(sarcoma)」、造血器細胞が悪性化したものが「造血器腫瘍(tumors of hematopoietic and lymphoid tissues)」です。これらの悪性腫瘍をまとめて表すときに「がん(cancer)」とひらがなで表します。
勝手に増殖するという意味で、「新生物(neoplasm)」という用語を使うことがあります。これも悪性、良性の両方を含みます。
二次がん はどういうもの?
二次がん というのは、言葉でいえば何らかの病気の後に生じる悪性腫瘍(がん)ということになります。網膜芽細胞腫は乳幼児期という、人生の早い時期に発生するため、他の腫瘍はほとんどその後に生じることから、網膜芽細胞腫が一次がん、他の腫瘍が二次がんになります。
他の遺伝性腫瘍症候群では、特定の腫瘍が最初に発症するとは限らないので、二次がんという用語より、関連腫瘍という用語を使うことが多いです。
網膜芽細胞腫の後に腫瘍が生じた場合、原因として①RB1遺伝子に関連した腫瘍、②網膜芽細胞腫の治療により引き起こされた腫瘍、③偶然発症した腫瘍 がありますが、厳密に区別することはできません。
①RB1遺伝子に関連した腫瘍
体の細胞で、RB1遺伝子の変化が原因で生じる腫瘍です。
RB1遺伝子はいろいろな腫瘍で癌の原因になることが分かっています。
肉腫という、一般には非常にまれな種類の腫瘍の頻度が高くなります。骨や筋肉に多いですが、体のどこにでも生じます。30年以上経過すると、肺がんなどの一般的な種類のがんの頻度も一般の方より多くなります。
②治療によって生じる腫瘍
放射線治療を受けると、その照射した範囲に腫瘍を生じます。目の治療で放射線を使うと、目の周囲の骨や副鼻腔などに肉腫を生じる頻度が増えます。
抗がん剤治療も遺伝子を傷つけるので二次がんが増える可能性があります。エトポシドなどの薬剤によって白血病が発症する危険性が知られています。ただ、実際には治療された方で白血病を発症した方はごく少数です。
③偶然発症した腫瘍
現在は二人に一人ががんになると言われています。RB1遺伝子や治療によって発症したもの以外で生じる腫瘍もありますが、厳密に区別することはできません。
二次がんの早期発見をするための方法はあるの?
症状がある場合は、上にのべたようにはやめに検査を行うことです。
症状がない場合、この検査をすればよいというものはありません。
全身のMRI検査を行うという方法があります。MRIは時間のかかる検査で、広い範囲を細かく検査することはむつかしく、動きがあると画像が不鮮明になるという問題もあります。ある程度の解像度で検査を行うため、普通は頭部、胸部、腹部など、範囲を決めて検査を行う必要があります。最近は全身MRIという方法もありますが、長い検査時間が必要で、乳幼児の場合は長時間の鎮静を行うリスクがあります。また、解像度が落ちて腫瘍があっても発見できないこともあります(偽陰性)。
最近は、拡散強調画像という方法で短時間で検出力も確保できる検査ができる方法があります。ただ、実際の検出率がどのくらいかわかっていません。また、偽陽性といって、炎症など腫瘍ではないものが多く検出されるという問題もあります。
別の問題は保険診療という枠組みです。保険診療は病気のある方が受けるもので、症状がない状態で病気があるかどうかを検査するような健康診断は保険診療では行うことができません。
人間ドックでがん検診を受ける、というのは選択肢かもしれません。ただ、多くの場合は全身のCTやPETなどの被曝を伴う検査を行うことになり、検査によって別のがんを発症する危険性を考える必要があります。
三側性網膜芽細胞腫 とはどういうもの?
三側性というのは、英語でtri-lateralと表現しますが、両側+脳腫瘍という意味です。脳の中の、主に松果体というところに、網膜に類似した細胞があるため、RB1遺伝子が原因で脳腫瘍を作ることがあります。転移ではなく、別の腫瘍を生じていることになります。
両眼に腫瘍を生じている場合の3~5%に三側性網膜芽細胞腫を発症します。片眼だけに腫瘍がある場合でも遺伝性のことがあるため、片側性の0.5%くらいで脳腫瘍を発症します(この場合も、正確には二側ですが、三側性網膜芽細胞腫とよんでいます)。
松果体に腫瘍ができると、脳を包んでいる髄液の流れが止められて、水頭症を生じます。ふらつき、頭痛や嘔吐などの症状が現れます。
三側性網膜芽細胞腫を早期発見することはできるの?
症状がない段階でも、造影MRIを行うことで、早期発見できる可能性があります。以前のガイドラインでは、両側性の場合には5歳頃まで、半年ごとに頭部MRIを行うことが推奨されていました。ただし、実際には無症状で発見できることが少なく、一方で検査の間に症状が出現してMRIを行うと腫瘍が発見されることが多数経験されたため、2018年の米国のガイドラインでは「一部の施設では5歳まで半年ごとの頭部MRIを推奨している」という表現にとどまっています。
乳幼児のMRIは鎮静や全身麻酔が必要であり、鎮静に伴う呼吸器の合併症リスクもあります。そのため、確率を考えると片側性の場合には、無症状で定期的にMRIを撮影することは勧められません。両側性の場合は、メリット・デメリットを考慮し、主治医とよく相談して検査を行うかどうか決めてください。